「がんです」と告げられたあの日から、あなたの心はどれほどの波にさらされてきたでしょうか。
頭が真っ白になり、目の前の景色が以前とは違って見えたり、夜、ふとした瞬間に言いようのない不安に襲われたり……。そんな日々を過ごされているかもしれません。
特に、お仕事をされている方にとって、病気のショックと同じくらい重くのしかかるのが、「これからのお金や仕事のこと」ではないでしょうか。
「今の仕事を続けられるのだろうか」
「職場の人に迷惑をかけてしまうのではないか」
「高額な治療費を払いながら、生活を守っていけるのか」
次から次へと溢れ出す悩みに対して、「もう辞めるしかないのかな」と一人で結論を出そうとしていませんか?
でも、どうか焦らないでください。
今のあなたに一番大切にしてほしいのは、大きな決断を急ぐことではなく、まずはご自身の心と体をいたわることです。がんは今、「働きながら治す」ことができる時代です。あなたを支える制度や、一緒に解決策を考えてくれる専門家が必ずいます。
この記事では、あなたが自分らしく治療と仕事を両立させていくために、まず知っておいてほしいことや、頼れる窓口、そして生活を支えるお金の制度についてまとめました。
一度にすべてを解決しようとしなくて大丈夫です。
まずは一息ついて、あなたのペースで、少しずつ一緒に整理していきましょう。
がんによる離職者の約56%が「治療開始前」に辞めている
がんと診断されて仕事を辞めた人の多くが、実は「まだ具体的な治療が何も始まっていない時期」に、不安に押されるようにして退職を決断しています。
離職したタイミングの内訳を見ると、治療が本格化する前に多くの人が職場を離れている実態があります。
がんの疑いがあり診断が確定する前:6.2%
がん診断直後:34.1%
診断後から初回治療を待っている間:16.5%
合計すると、離職者の56.8%が「初回治療が始まる前」に離職を決めています。
出典:国立がん研究センター がんサバイバーシップ支援部「がんと仕事のデータ」

※離職者の半数以上が、実際の治療(初回治療)を経験する前に辞めていることがわかります。

告知された日の夜、スマホで副作用を検索し続けました。『激しい吐き気』『脱毛』という文字を見るたびに、まだ元気なはずの今の自分が、職場で倒れて迷惑をかけている姿を鮮明に想像してしまったんです。 体調が悪くなったから辞めたのではありません。『これから起こるかもしれない恐怖』に耐えられず、逃げるように辞めると言ってしまいました。
出典:キャンサー・ソリューションズ「働くがんサバイバーの声」事例より要約
【体験談】「もう働けない」と思い込んだあの日の後悔
データの裏側にある、切実な後悔の声です。告知直後のパニックがいかに判断を狂わせるか、経験者はこう振り返ります。
「診断された翌日、上司に『辞めます』と言いに行きました。でも、実際には副作用も軽く、テレワークを組み合わせれば続けられたはずでした。パニック状態での決断は、冷静な判断を狂わせます。」
出典:キャンサー・ソリューションズ「働くがんサバイバーの声」
『がん=死』というイメージしかなくて、周りに病人だと思われたくない、同情されたくないという一心で辞めてしまいました。キャリアを捨てるのは一瞬でしたが、戻るのは本当に大変です。
出典:キャンサー・ソリューションズ「働くがんサバイバーの声」より要約
【実践】上司の信頼と協力を引き出す「具体的な伝え方」
報告の際、上司が抱く「今後どうなるのか?」という不安を解消し、前向きなサポートを引き出すための具体的な伝え方のポイントです。
① 働き続ける「意欲」をまっすぐに伝える
「病気だから迷惑をかける」という申し訳なさだけでなく、「貢献したい」という前向きな姿勢をセットで伝えることが、上司の安心感につながります。
『ご迷惑をおかけします』だけで終わらせず、『治療をしながら、できる範囲でしっかり貢献したいと考えています』と、働き続ける意志を明確に伝えましょう。



『仕事は私の生きがいです。続けさせてください』とはっきり伝えたことで、上司が『わかった、全力で守るから一緒に方法を考えよう』と、私を『戦力』として扱い続けてくれました。」
出典:キャンサー・ソリューションズ 調査事例より
② 「わからないこと」を正直に伝え、期限を提示する
告知直後は本人も状況がわからないのが当然です。無理に答えを出そうとせず、「いつわかるか」という期限だけを共有します。
「現在は精密検査の結果を待っている状態です。〇月〇日の診察で具体的なスケジュールが決まるので、改めてその日にご相談のお時間をいただけますか?」



「『〇日に結果が出るので、その翌日にまた報告します』と約束することで、上司も安心したようで、聞かれなくなりました。」
出典:国立がん研究センター「がんと仕事のQ&A」事例より要約
③ 具体的な「働き方の案」をセットで提案する
「どうすればいい?」と上司に丸投げするのではなく、自分の業務を整理して「これならできる」という具体案を提示します。
通院でお休みをいただく日はありますが、それ以外の日はテレワークや時差出勤を組み合わせることで、今持っている案件を継続したいと考えています。



業務を『出社が必要なもの』と『自宅でできるもの』にリスト化して提示しました。上司に『ここまで考えているなら任せられる』と信頼を得られました。
出典:厚生労働省「治療と仕事の両立支援ガイドブック」事例より要約
【知識】働き続けるための「武器(制度)」を整理する
傷病手当金(経済的な武器)
病気やケガで連続して3日間休んだ後の「4日目」から、最長1年6ヶ月の間、給与の約2/3相当額が支給される制度です。
ポイント: 休職中だけでなく、一旦復職して再度体調が悪化して休んだ場合も、通算して1年6ヶ月分受給できるようになりました(2022年の法改正)。
詳細資料(公的HP等)
時間単位有給・失効有給の積立(時間の武器)
「1日休むほどではないが、通院で2時間だけ抜けたい」という時に役立つ制度です。
- 時間単位有給: 労使協定があれば、1時間単位で有給を消化できます。
- 失効有給の積立: 本来2年で消えてしまう有給休暇を、病気療養などのために積み立てておける制度です
☑️会社の「就業規則」でこれらがあるか必ず確認しましょう。
詳細資料(公的HP等)
がん相談支援センターと社労士(情報の武器)
全国の「がん診療連携拠点病院」などに設置されており、その病院に通っていなくても誰でも無料で相談できます。
社会保険労務士(社労士)への相談: 多くの支援センターでは、定期的に社労士による専門相談会を実施しています。制度の申請方法や、会社への伝え方を具体的にアドバイスしてもらえます。
詳細資料(公的HP)
【行動】まず何からやる?
がんと告知された直後は、誰でも頭が真っ白になり「周りに迷惑をかけるから、もう辞めるしかない」と考えがちです。
しかし、パニックのまま大きな決断をするのが一番のリスク。まずは深呼吸をして、立ち止まってみてください。今のあなたに必要なのは「辞める決断」ではなく、「今の状況を整理し、味方を増やすこと」です。
具体的に、まずどの順番で動けばいいのか、3つのステップで確認しましょう。
「今の仕事の内容」を伝え、治療しながら続けられるか意見を聞く。
いきなり辞めるのではなく「治療しながら続けたい」意向をまず伝える。
人事担当や、病院の相談支援センターで活用できる制度を洗い出す。
がんの告知を受けてすぐは、頭が真っ白になり「もう仕事は無理だ」と思ってしまうかもしれません。
でも、決して一人で決断を急がないでください。医師や看護師、そして相談支援センターのプロたちが、あなたの「働きたい」という気持ちをサポートする準備を整えています。
まずは深呼吸をして、このステップを一つずつ進めていきましょう。



